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パティシエと職人の素顔パティシエと職人の素顔 和菓子編1 喜久月

大正4年創業以来、台東区谷中で古き良き東京の和菓子を作り続ける「喜久月」。ご主人の青山信雄さんは12歳の時に「喜久月」へ弟子入りし、以来、85歳の今日まで和菓子一筋に生き続けておられます。お菓子が好きで好きで飛び込んだ丁稚時代の思い出や、戦前の徒弟制度で骨身にたたき込まれた和菓子作りの技術、本物の味へのこだわりをお聞きしました。

[2007年1月号]

経歴&インタビュー

青山信雄さん

<青山信雄さん経歴>

1922年
東京は湯島に生まれる。
1934年
小学校を卒業後、「喜久月」に弟子入り
1943年
徴兵されて海軍へ入隊
1944年
乗り組んでいた軽巡洋艦が沈没し、九死に一生を得る。
1948年頃
終戦後、しばらく休業していた「喜久月」を再開。
1954年
新作菓子「あを梅」が第13回全国菓子大博覧会で特等受賞。
1986年
台東区優秀技能者として表彰される。

和菓子職人になられたきっかけは?

私はもともと和菓子屋の子どもに生まれたんじゃないんですよ。私の実家は湯島にあって、おやじは精米機を作って売っていたんだ。でも私はそういう仕事が大嫌いで(笑)。おやじの妹が銀座の和菓子屋に嫁いでいたので、小学生の頃、ちょくちょく遊びに行って、お菓子を作っているところを見ていたんだね。「俺、菓子屋になるっ!」と始まっちゃったんだよ。小学校を卒業して、せっかく中学を受験して受かったのに入学式の前日に家出して、砂糖問屋をしていたおじさんのうちへ逃げちゃった。翌日、母親が涙をぽろぽろこぼしながら迎えにきたよ(笑)。

結局、親は私の気持ちを納得してくれたんだが、その時の条件が「日本一のお菓子屋になること」。砂糖問屋のおじさんの紹介で、腕のいい職人のいる「喜久月」に12歳の時に小僧さんで入って、今までずっと菓子屋をやってますよ。これまで台東区や東京都から伝統技能の職人として表彰され、2年前にはアメリカの新聞にも紹介されたので、そろそろ「日本一の菓子屋になる」という親との約束を果たしたんじゃないかな。

現在は製菓学校に入って菓子作りを学ぶ人がほとんどですが、青山さんが経験した徒弟制度との違いは?

私の父である2代目が39歳という若さで亡くなったので、私も小さいうちから家の手伝いをしていたんです。小学校時代から学校へ行く前に店の掃除をしたり、忙しい時期はもちの配達をしたり。当時は遊び感覚もあって、楽しくやっていたと思います。

私は子どもの頃から手先が器用で、ものつくりが大好きでしたし、職人に憧れていたので、自然とこの世界へ入りました。高校時代は土日になると工場を手伝っていましたので、だいたいのことはできたんです。でも大学時代は油絵をやりたくて、朝9時から夜10時まで絵を描きっぱなしの4年間でした。卒業後は家の仕事に入りましたが、最初は二足のわらじを履くつもりだったんです。もっともすぐに忙しくなって和菓子一本になってしまいましたが。

菓子作りを体で覚えるには、他の人のやっているのを見て学ぶのがいいんですよ。私が12歳で「喜久月」に入ったとき、表に4人、奥に2人の小僧さんがいました。毎年、ひとりずつ新人の小僧が入ってきて、丸3年過ぎると奥へ入って、実際の菓子作りをさせてもらえるんです。それまでは朝一番に起きて土間の掃除、お客さんの応対、そして雨が降っても、風が吹いてもお得意さんへの配達だ。そうやって仕事をしながら菓子作りの様子を見ているから、奥へ入ったらすぐに仕事ができるんです。これが見習い。新人がいきなり手で教わっても覚えられるものじゃない。何年も見ているから、自然と頭の中へ入ってっちゃうんだ。それが製菓学校との違いですよ。

そのかわり仕事は大変ですよ。休みは月に一度でね。一番下の小僧は夜中に逃げ出さないよう、おやじさんの隣に寝かせられるんですよ(笑)。

機械を使った菓子作りが主流になった今、職人としての青山さんのこだわりとは?

2代目の父が早く亡くなったこともあって、とにかく健康を考えて安心安全なものを食べていこうというのが私たちの考えなんです。ですから当然、和菓子の素材は選び抜いたものを使っています。

私たち菓子職人は日本料理の板前と違って、河岸で新鮮な魚を仕入れて料理をするというのができないんだね。小豆と白いんげんと砂糖と、限られた題材を使って煮てこしらえる職人の技というのが、ひとつ出てくる。今はあんこ屋からあんこを仕入れる店も多いけれども、うちでは毎日あんこを練ってますよ。小豆を煮るのにも神経つかって、「おい、煮えた!」という時にパッと火を消す。煮えすぎちゃいけないんです。そのあと小豆の皮を取って水にさらし、手で練っていく。なぜこの方法が一番おいしいかというと、今はどこでも100%機械で練るから、砂糖の混ざった豆のデンプン質に空気が入って、余分なねばりが出るんですよ。本当のあんはさらさらっとしてなきゃいけない。

本来、和菓子は色や形が中心じゃないんです。中のあんと表のあんが同じにビッといって、口の中に入って噛んでいるときのかたさが勝負なんです。この菓子のこのかたさは何を意味したかたさなのかを、いつも考えていないと。

たとえば練り羊羹なら噛んだ時、カックンと歯形がついて食べられるものが本物です。機械で練った羊羹を噛んでご覧なさい。コツン、コックン、コルン、コルンという感じがします。うちでは練り羊羹も手で練ってますから、このカックンという、本来の食感がわかってもらえるはずですよ。

おすすめ商品

  • あを梅
    あを梅

    [120円(税抜)]

    「喜久月」を代表する銘菓。京の白味噌と砂糖を入れて煉り上げた白餡を、抹茶を含ませた求肥で包んだもの。ふっくらした梅を思わせるこぶりの姿で、口に含むと爽やかな舌触りが楽しめる。

  • 光林菊
    光林菊

    [270円(税抜)]

    尾形光琳のデザインした、すっきりと丸く意匠化された菊をかたどった上生菓子。さらりとした風合いの自家製こし餡を、しっとりしたこなしで包んだ艶やかな逸品。

  • うぐいす鹿の子
    うぐいす鹿の子

    [270円(税抜)]

    適度な固さを残して炊きあげたうぐいす豆を贅沢に使い、自慢のこし餡玉との歯触りの違いを楽しむ粋な和菓子。豆の福々しい香りが漂う。

お店の詳細


店鋪情報

  • TEL:03-3821-4192
  • 住所:東京都台東区谷中6-1-3
  • アクセス:地下鉄千代田線根津駅より徒歩6分
  • 営業時間:9:00~18:00
  • 定休日:火曜
  • MAP

アメリカン・ナッツカフェ

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