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パティシエと職人の素顔パティシエと職人の素顔 和菓子編6 菓匠 菊家

港区南青山の骨董通りで和菓子を作りつづけて半世紀以上。かつて作家・向田邦子も愛したという老舗「菊家」は、最先端のファッションの街と少しも違和感なく溶けあっています。伝統を守りつつ、繊細かつ大胆な新作和菓子を発信し続ける二代目店主・秋田俊典さんに、日々進化する「菊家」のスイーツ・ワールドを語っていただきました。

[2007年11月号]

経歴&インタビュー

秋田俊典さん

<秋田俊典さん経歴>

1942年
東京・青山生まれ
1960年
高校を卒業した年に初代が亡くなり、二代目を継ぐ。

お店の由来と、秋田さんの修業時代を教えてください。

初代は銀座で和菓子の修行をして、20代前半で青山通りに店を出しました。第二次大戦でいったん疎開し、戦後、昭和25年頃に現在の場所へ戻ってきたんです。私は長男ですが店を継ぐつもりはなく、父親も「やりたくないなら、まあ仕方ないか」という感じで、和菓子作りを教わったことはありませんでした。ところが高校を卒業した18歳の時、父が52歳という若さで亡くなったんですね。私の下には幼い兄弟がいたので、やはり家業を守らなくてはいけない。それで無理矢理、母親にやらされたんです(笑)。

しかし最初は本当に大変でした。他に菓子作りを教えてくれるところもあったんですけど、母親が「絶対、よそへ(修行に)いくな」と言うんですね。菊家の味とよその店の味が混ざってしまうといけない、という理由です。幸い父親がレシピを残していてくれたのですが、材料が書いてあるだけなので、餡の煉り方ひとつでも迷う。たとえば「瑞雲」という菓子はへら一本で形を取って蒸かすんですが、夏場と冬場では様子が全然違います。夏は砂糖をちょっと多めに、冬はちょっと少なめにして、あとは煉り方ひとつで仕上がりが変わる。後を継いだばかりの頃はそういうことがまったくわからなかったから、ひたすら数をこなして、手で覚えていきました。

そんな修行の間、「味が変わった」と言われて苦労しましたし、母親は毎日厳しく味を確かめていました。父親の味はおふくろが一番よく知っていたので、僕の菓子を見て食べて「全然ダメだ」と言うんです。当時、工場の裏に小さな庭があったんですが、そこへ穴を掘っておふくろはせっかく作った菓子を全部捨てた。いつも山のようになってましたね。もちろん年中、ケンカをしていましたよ(笑)。「なんでダメなんだ!」と。結局、母親のOKをもらうまで10年かかったんです。今思うと、この苦労で得たものは大きかったですし、僕の財産でもありますね。

「菊家」は茶会の菓子としても有名ですね。

そうですね。僕も30代になってある程度、品物ができるようになると、次のことを考えるようになりました。昭和の頃は青山から赤坂にかけて、和菓子屋が20軒くらいあったんですね。その中でどうやって生き残るかというのが、まずは心配でした。そこで最初は菊家を知っていただこうと思って、お茶会の菓子をやり始めたんです。当時、店売りは3割ほどで、あとはお茶会が中心。朝から菓子を作ってお茶会の席へ持っていき、裏方も手伝う。そんなことを10年くらい続けたと思います。茶会は季節やテーマによって、どんな小道具を使うかを考えて菓子を作ります。また自分でも勉強して、歌舞伎や踊りのお菓子もだいたい作ったので、よい経験になったと思います。

40歳を過ぎてからは、今度は店を中心に仕事をするようになりました。店頭には父親がやっていた時代から生菓子を20種類ほど置いていたんです。今も15、6種類はやっていますが、毎年同じものではもたないし、時代時代によって客層も違ってくるので月に2、3個ずつ、新作を出しています。数えたことはないんですが、菓子の写真を集めた写真帳は山のようになっていますね。お茶会に出すお菓子の場合、まず菓銘を見て、姿を見て、味を見て。いわゆる「五感で楽しむ」と言いますが、わびさびの世界ですから、色を出すにも薄めにします。店に並べるお菓子はパッと見て、「おいしそう、キレイだな」という感覚で買っていかれるお客様が多いので、また違った雰囲気にしています。

これからの菊家のお菓子とは?

父親のつくった伝統は残していかないといけない。かといって、それだけにこだわってもいけないとも思います。「瑞雲」や「黎明の鶴」といった父の菓子を守りながら、常に新しいものも考えているんですよ。今は昔と違っていろんな材料があるので、たとえば餡も小豆だけの味ではなく、杏や柚子、ゴマを使ってみたりもしています。新作はどんどん作るけれども、作りながら、これでいいのかな、もうちょっと違うものがあるんじゃないかと考えて。確かに完成されたお菓子もあるんですけれども、それは全体の80%。残り20%は変えていかないといけません。

ただ新しい菓子というのは、考えて考えて、考え抜いてもろくなものはできない(笑)。新作を始めた当初は、まず図案を描いてやるものだと思っていましたが、絵と実際に作ったものでは全然違う。絵に描いたもの、頭で考えたもの、手で作ったものがなんとなく、ふっと一緒になった時が一番いいのかもしれないですね。

やはり和菓子は季節感が一番大事ですから、それぞれの年中行事や節句には力を入れています。たとえばバレンタインにダイヤの形の菓子を作ってみたりもしたんですよ。そう考えると菓子作りも奥が深いなと思うし、奥深いから突っ込んでいって挫折することもありますけど(笑)。店に来たお客様に季節感を感じていただければ嬉しいですね。

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お店の詳細


店鋪情報

  • TEL: 03-3400-3856
  • 住所:東京都港区南青山5-13-2
  • URL:http://home.h00.itscom.net/kikuya/
  • アクセス:銀座線、半蔵門線、千代田線・表参道駅より徒歩5分
  • 営業時間:9:30~17:00(土曜日15:00)
  • 定休日: 日曜・祝日
  • MAP

アメリカン・ナッツカフェ

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